大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大分家庭裁判所 昭和42年(少)8044号 決定 1967年8月26日

少年 O・H(昭二三・一一・七生)

主文

本件について少年を保護処分に付さない。

理由

(罪となるべき事実)

少年は、公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四二年七月○日午前九時五二分ごろ、大分市○○町○丁目秦○一方前路上において、自動二輪車(大分市○-○○○○号、旧第二種原動機付自転車)を運転したものである。

(適条)

道路交通法六四条、一一八条一項一号

(処遇事由)

交通事故激増の折柄、本少年の無免許運転は厳しく批難せられるべきものであるが、少年は当時普通免許を取得していたこと、本件はこの免許では運転することの許されない自動二輪車を単純な気持で運転したにすぎず、それ程悪質なものとはいえないこと、およびこれまでに何らの非行前歴がなく、これを深く反省しているなど諸般の事情を考慮して、本件について少年を保護処分に付する必要がないものと認める。

(条件違反の事実について、犯罪の成立を否定した理由)

なお、本件送致事実のうち、条件違反の所為は、「少年は前記日時、場所において、前記自動二輪車を運転する際、法定視力に矯正した眼鏡を使用せず、もつて公安委員会が付した所定の眼鏡を使用すべき旨の条件に違反して、前記自動二輪車を運転したものである。」というのである

ところで、一件記録、少年の当審判廷における供述および大分県公安委員会発行の少年に対する運転免許証によれば、少年は昭和四二年一月二〇日普通免許を取得したが、大分県公安委員会は少年の裸眼視力が道路交通法施行規則二三条所定の基準に達しなかつたため、前記普通免許を与えるに際し、道路における危険を防止し、その他交通の安全を図る必要があると認めて、道路交通法九一条、同施行規則二三条にしたがい、少年に対し法定視力に矯正した眼鏡を使用すべき旨の条件を付したこと、および送致事実のように少年が前記日時、場所において、眼鏡を使用しないで、前記自動二輪車を運転したことが認められる。

そこで、その犯罪の成否を考えてみるのに、道路交通法九一条の規定の趣旨、内容からしても、本少年に対し付された前記条件は、当該普通免許によつて法律上運転することのできる自動車等を運転する際に、遵守すべき事項であるから、同法一一九条一項一五号所定の免許条件の違反罪が成立するためには、条件の付された運転免許証に定められた車種、または道路交通法の規定に基づき当該運転免許によつて運転することの許されている自動車等を運転する場合における条件違反の事実に限られるべきものと解すべきであるところ、本件において、少年は前記のとおり自動二輪車を運転したのであるが、これはもともと少年の所持する普通免許の資格では、道路交通法上明らかに運転することができない車種であつて、かかる場合において前記条件は法律的に意味をもたないのであるから、少年において自動二輪車を運転したことが、前記のとおり無免許運転として、その犯罪を構成するものである以上、眼鏡を使用しなかつたことにつき、少年に対し条件違反罪の成否を論ずる余地はなく、その成立を否定すべきものと解するのが相当である。

以上の理由により、本件送致事実のうち、条件違反の所為は結局罪とならないものであるから、これにより少年を保護処分に付することができないことに帰する。

よつて、少年法二三条二項前段、後段により、主文のとおり決定する。

(裁判官 野口頼夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例